【古本屋の書評】カウンセラー/松岡圭祐

昨夜、大好きな松岡圭祐さんの小説「カウンセラー」を読んだ。
松岡さんの作品は、角川に移ってから「完全版」という形でリライトされて
昔書いた作品もみな、書き直して発刊されている。千里眼シリーズ含め、
2度づつ読んでいることになる。角川さんも上手いことやりますねえ。

この小説は、家族を13歳の少年に惨殺された音楽教諭が、少年に復讐し、
さらにエスカレートして凶悪少年犯罪者に対し次々と死の制裁を加えるようになる。
それを見抜いた臨床心理士の嵯峨が、音楽教諭に対して心の救済をしていくという
ストーリーだ。

この音楽教師は、臨界例、つまり精神病予備軍であったという扱いなのだが、
その生い立ちに彼女が父親から受けた扱いが、僕と同じだったのでびっくりした。
そして昔を思い出し、ずいぶん考えてしまった。

僕の父親は、今はボケて、恍惚の世界に足をつっこんでいるために、
僕は毎日実家に帰って、世話とまではいかないけれど、手伝いをしている。
しかし、僕は今でも、彼を愛しているか、少しも自信が無い。
疲れているときや、ストレスが溜まっているときには、不自由さに憤りを感る。
死ぬのを待っている、と言っても良いかもしれない。

僕が子供の時、彼は、神経質で、怒りやすくてお世辞にも優しい父親ではなかった。
例えば転がっているおもちゃを踏んだり、ささいな事で怒鳴る。「出て行け!」と。
子供は自分で生活できないから子供なのだ。それを追い出すようなそぶりは、脅迫だ。
気に入らないやつは子供でも追い出すというのは、暴君以外の何者でもないだろう。

また、時には怒鳴って、まくし立ててから「なにか言うことがあるなら言ってみろ」
という。僕がしゃくりあげながら、怒られることになった原因に対しての反論を
しようとすると「言い訳をするな!」とさらに怒鳴られた。

そして、事あるごとに「人に迷惑をかけるな!」と言った。
その「人」には自分も含まれていた。
子供は人の厄介にならずに生きていくことはできない。

その「人に迷惑をかけない」ということは、ことのほか難しかった。
教科書を忘れて、隣の子にみせてもらわないといけないときには
僕は消え入りそうになっていた。消しゴムを忘れたら、唾をつけて
こすった。体育の団体競技は、迷惑をかけるので嫌だった。

誕生日のプレゼント、僕は野球盤を買ってもらう約束をしていた。
それらしい物を親父は買って来たのだが、僕が貰ったものは、
売り場で自分が気に入った、野球盤とは違うものだった。

僕は、2番目に欲しいもので我慢する子になった。
だから、皆が乗っていて、僕も欲しかった変速機付きのサイクリング車が、
「バンビ」という名の子供用の自転車に化けても、僕はもう泣かなかった。
友達の手前、恥ずかしかったけれど。

ぼくの少年時代は、決して楽しかったとは思い出せない。
ぼくはいつも、消えてしまいたかった。
居なくなれば、皆に迷惑がかからなくて良いと、いつも考えていた。

親父は僕の成績がよければ、機嫌が良かった。
学歴が人間の価値のように、いつも言っていた。
だから僕は、そこそこ勉強して、そこそこの学校に進んだ。

自分が、自分らしくあって良いのだと悟ったのは、高校生の時だったと思う。
たくさんの友達に恵まれ、そしてガールフレンドもできた。

彼女に、あなたが、僕の一番欲しいものだと告げ、彼女はそれを受け入れてくれた。
僕はついに、自分の一番欲しいものを手に入れた。
ぼくはやっと、自分を肯定し得た。

思い出すまでもなく、親父は昔から、人の話を聞くひとではなかった。
自分の価値観を唯一のものだと安易に考えて、そのほかの考えがある事は
想像すらしない人だったように思う。

そんな親父を見て、僕は人の考えはそれぞれで、それを変えようとするのは
間違っていると思うようになった。そしていつの日からか、表向きは従順で、
物分りが良い、でも心の中は頑固な自分が、出来上がっていた。
逆らわないけれど、勝手にやる、そういう人になっていた。
だから僕の奥さんは、僕を追い出して反省させようとしても無駄なんだ(笑)

いまさら40年も前のことを思い出して恨んでみても仕方ないと、自分でも思う。
でも、きっと親子という関係は、そういう感情も必ず育むのだろう。
だからきっと、僕の息子たちも、僕に対して何がしかの恨みを抱くのだろう。
いくばくかの愛情と同じくらいの重さで。

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