【古本屋のショートショート】オレンジ
- 日付:6月24日
- カテゴリー:古本屋買取堂の書評
目が覚めると、昨日の嵐はどこかへ吹き飛んで、
空がスコンと抜けていた。
Tシャツとトランクスだけで寝ていた僕は、ジーンズを履くと、
いつものように、洗面所から斜めに見える海を見た。
馬鹿馬鹿しいほど強烈なコントラストで、光が爆発している。
海は、その姿を完璧に映していて、目が離せない。
僕は急に元気になると、歯を磨き、シェービングクリーム
を使って髭をあたった。
モップを持って、海に面した2階のウッドデッキに出ると、
昨日の雨に打たれた、白ペンキの床板を掃除した。
僕のほかには、アブラゼミも上機嫌のようだ。
Koolを一本灰にしながら、掃除の出来栄えを点検して満足すると、
僕はフリーザーから凍った小エビを出して、
ビールと一緒にクーラーボックスに入れ、
デッキシューズを突っかけて、すぐ近くの堤防に向かった。
夏休みに入る前の堤防には誰もいなかった。
僕はタバコを吸い、持ってきたクーラーの中のハイネケンで
喉をうるおしながら、1時間ほど、釣りをした。
僕の腕や顔は、また赤みを増したようだ。
家のデッキに戻って、読みかけの本を開いて間もなく。
彼女のフィアット500がゆっくりと、角を曲がってくるのが見えた。
オレンジ色のてんとう虫のような姿が、のこのこと近づいてくる。
ぼくはこの車を見るたびに、選んだ彼女のセンスに感心する。
青い海と空をバックに、ゆっくりと坂を登ってくるオレンジ色のフィアット。
夏の嬉しさを、全身で表現しているような車だ。
やがて家の前の空き地に、フィアットは停まり、ドアが開いた。
涼やかな麻のワンピース姿の彼女が、笑顔で手を振った。
「おはよ~、すごい、いい天気だね~」
いつも上機嫌な彼女だけれど、今日はいつにも増して元気そうだ。
彼女の細い腕が大きく振られる。ぼくはその白さを眩しく思い、
自分の顔に笑顔が張り付いているのを感じながら、
彼女を家に迎え入れた。
掃除がすんだばかりのデッキへ彼女を案内した。
馬鹿でかいモスグリーンのパラソルを広げて、日陰をつくった。
君はキャンパスチェアに腰をかけ、白い両腕を大きくを挙げて、
幸せそうな顔で、伸びをした。
「う~ん、気持ちいいねえ、この場所、大好き。」
「今日は、いいカサゴが釣れたよ。夕食で、から揚げにしよう」
「きゃー、嬉しい!あ、そうだ。」
君は籐のバスケットを差し出した。
開けると、大きなバケットサンドと、オリーブのフリッター、
そしてオレンジが一個、丸ごと入っていた。
ヘンケルの果物ナイフが添えてある。
「お~、やった。じゃあ昼ごはんにしよう。」
「うん、おなか空いた。」
僕は冷蔵庫に取って返すと、冷えたハイネケンの瓶を2本取り出し、
フリーザーで冷やしたトールグラスを逆さに下げて、デッキに戻った。
彼女はその間にテーブルの上にクロスを敷き、
皿にサンドイッチとフリッターを盛り付けておいてくれた。
僕は冷たいハイネケンをグラスに注いだ。
ころりと転がっているオレンジと、グリーンのハイネケンの瓶。
そしてグラスに次々と立ち上る泡が、夏の日陰で鮮やかに映った。
僕たちは、控えめにグラスを合わせてから、食事を楽しんだ。
背の高いグラスの中を、透明な泡が連なって昇っていった。
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