【古本屋のショートショート】七夕

「お~い。ヒロ~?帰るぞ~」

お父さんの少し酔っ払った、大きな声が聞こえた。

日曜日の夕暮れ。日は暮れたけど、すこし紅色の混じった紺色の空は、まだ明るい。
僕の住む、田舎の町の神社は、七夕のお祭りの真っ最中だ。
提灯が並び、大勢の楽しそうな子供や、酔っ払いや、

浴衣のお姉さんで賑わう参道。発電機のエンジンの音が賑やかだ。
狛犬の後ろに立てかけられた笹の葉には、色とりどりの短冊が下がっている。

さっき、僕の書いた短冊には、「ファイナルファンタジーのソフトが欲しい!」って書いてある。
お父さんが横目で覗いていたから、わざと、ちょっとだけ見えるように書いた。
お父さんは、そのときは見てない振りをしていたけど、あとで覗いていたのを僕は知ってる。

「ちょっと待ってて!」

本当は一人で帰って欲しかったけど、心配されるのも面倒だから。
僕は手に持ったすもも飴の棒をゴミ箱に捨てると、さっきまでいた参道に駆け戻った。

急いで、さっき書かずに取っておいた金色の短冊を、お尻のポケットから出すと、
僕はサインペンの置いてある机にかじりついた。

「これでよし。」

お父さんの声が聞こえたあたりに駆け戻った。
きっと、急に紺色になってきた町の角の、白い提灯のあたりで飲んでるだろう。

「お父さーん」

僕が言うと、思ったとおり、白い提灯の目立つ屋台の、床机に腰掛けたお父さんが、
おおきな手を振って答えた。ワンカップのコップを持って嬉しそうだ。

「ヒロ、焼き鳥食ってけ。何してたんだ?」

僕は答えずに、焼き鳥を頬張った。
ちょっとさめてるけど、甘いタレがおいしい。
「うまい。」僕は、笑った。

お父さんも、でかい手で僕の頭を乱暴にくしゃくしゃにすると、
満足そうに笑った。

おとうさんには言えないけど、金色の短冊に、さっき僕は、こう書いたんだ。

「おかあさんと、ユウと、四人で暮らせますように。」

無理だろうけど。
でも、もしかしたら神様が聞いてくれるかもしれないじゃない?

■古書や中古CD,DVD。価値ある本を高く売る人に。古本屋買取堂は古本の買取専門店です■

コメントをする  

記事 「【古本屋のショートショート】七夕」 に対してコメントをする

※メールアドレスは管理人以外には公開されませんのでご安心ください。

コメント内で使用できるXHTMLタグ:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <code> <em> <i> <strike> <strong>

トラックバック URL