【古本屋のショートショート】フラッシュバック

暑い。エアコンの効いているオフィス。でも背中に背負った窓の、

ブラインドに当たる日差しが、強烈だ。

ブラインドの隙間、3階の窓から外を見ると、爆発したような白い光の洪水で鮮やかなようでもあり、
退色したようにも見えるコンクリートの町並み。こんな日には決まって浮かぶ映像がある。

海の只中、サーフボードにまたがって見る、海水の中に沈んだ腕時計の文字盤が放つ、不思議に無機質な光。
それに対比するすっかりやけて濃い茶色になった自分の腕。

岸に向かい、背後に迫る、波とのタイミングを意識しながらするパドリング。
そして、ボードに波の力が「グン」と乗り、自然の力を借りて動き始める瞬間。

波の上からボトムを覗き込んだ時の意外な程の高さ。胃がもちあがるような不安感。
次の瞬間、知らない間にテイクオフして波の斜面を滑っている爽快。
砕け散る波頭。聞こえないほど低い衝撃音。コマ落としで写るあたりの様子。すこし肌寒いような興奮。

そしてボードから下りた瞬間、突然聞こえてくる高周波の波音。

映像と言うよりも一連の印象として身体に染み付いているものが突然に目を覚まし、昔に引き戻す。
潮の匂いも、水の温度も、突然聞こえる波音もはっきりと追体験できるようだ。

学生の時は波乗りばかりしていた。エアコンの無い、床の抜けたボロヴァン。
ヘッドライトに人工芝で作った緑の眉毛を貼り付けられた間抜けな顔。
サーフボードとタオルケット、そして赤い星のついたビールジョッキをひとつ積んで、
千葉やら湘南やら伊豆やら、ひとりで小銭のある限り、彷徨っていた。

財布には5000円も入っていれば上等。3、4日はガソリン入れて、波乗りして暮らせる。
腹が減ったらアンパンをかじり、夜はビールをジョッキに2杯飲んで、平らな荷台で眠る。

朝、波乗りをして、白昼に、次のポイントへ移動。
次に来るはずの素晴らしい波を体験したくて。
ガソリンの残りを気にしながら、窓を全開にして。

光の洪水の中、逃げ水に向かって、ポンコツヴァンでゆっくり走っていた頃の映像が、
突然頭の中に降って湧いて、頭の中で暴れまわって、そして消えていった。

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